大阪高等裁判所 平成8年(ラ)954号 決定 1997年9月16日
再抗告人
シャングリア株式会社
右代表者代表取締役
菅沼正
右代理人弁護士
雨宮眞也
主文
一 本件再抗告を棄却する。
二 再抗告費用は再抗告人の負担とする。
理由
第一 本件再抗告の趣旨と理由
一 再抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 本件を大阪簡易裁判所に差し戻す。
二 再抗告の理由
別紙再抗告理由書記載のとおり
第二 当裁判所の判断
一 本件再抗告の理由は、要するに、本件のように、公示催告に応じて届出人が権利を届け出るとともに証券を提出した場合において、届出人が担保権その他証券上の一部の権利の帰属を主張し、かつ、その形式的資格を立証したときは、民訴法七七〇条に従い留保付除権判決あるいは中止決定をすべきであるのに、同条の適用の余地はないとした原決定には決定に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があるというものである。
二1 証券上の権利者が証券を喪失しその所在が不明の場合、権利者は自ら権利を行使することができない一方、証券を新たに取得した者が善意取得により証券上の権利を取得し、あるいは、債務者が証券の所持人に弁済することにより免責の効果が生じて、権利者が権利を失うおそれがある。こうした証券上の権利者の不利益を救済するために、喪失した証券を回復するか、あるいは証券の無効を宣言する手段として設けられたのが公示催告手続である。
したがって、公示催告に応じて権利の届出とともに証券の提出がなされた場合に、申立人が右証券の同一性を承認し、あるいは証拠上同一性が認定されたときは、証券の所在は判明し、公示催告手続の目的は達成されたこととなる(提出された証券は民事保管物として保管される)。
一旦保管された証券も公示催告手続終了後は届出人に返還されるが、申立人は、その間にあるいは返還後でも、右証券を保全する措置を講ずることができるし、また、証券の権利の帰属は届出人に対する通常訴訟手続において確定すべきものであるから、除権判決の申立はその要件を欠くものとして、却下されることとなる。
2 これに反し、申立人が証券の同一性を争い、証拠上も容易に同一性が認定できないときは、公示催告手続中では最終的な権利の帰属を判定することができないから、裁判所は、証書真否確認訴訟あるいは権利確認訴訟において証券の真否ないし権利の帰属が確定されるまで、公示催告手続を中止すべきこととなる(民訴法七七〇条)。しかし、この場合、提出された証券が最終的に申立証券と同一性がないと判断されたときは、公示催告手続が中止されている間に、申立の対象とされた真実の証券が転々流通して第三取得者を生じ、善意取得や債権の準占有者への弁済等の効果が生ずる可能性がある。こうした事態を防ぐため、中止決定をすべき場合であっても、事情によって、届出人の権利関係の確定は留保しつつ、その余の不特定の第三者との関係でのみ提出された証券の無効を確定して申立人の不利益を救済しようとしたのが留保付除権判決の制度である。
右制度の趣旨に照らせば、留保付除権判決あるいは中止決定をすべき場合は、届出人が証券を提出しないか、提出してもその同一性を判定できないときに限られるものと解するのが相当であり、本件のように、届出人の提出した証券の同一性を申立人が承認している場合には、公示催告手続の前提要件を欠くこととなり、民訴法七七〇条の適用の余地はないというべきである。
これと同旨の原決定に法令の解釈適用を誤った違背はない。
三 よって、本件再抗告は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 長井浩一)
別紙<省略>